探してたのとは違うけど


 普通ならありえない。
 東京・代々木第一体育館に一瞬、妙な空気が漂った。
 9日の第76回皇后杯全日本バスケットボール選手権準決勝。女子の全日本王座をかけたセミファイナルの第2試合はトヨタ自動車アンテロープスが80-62と日本航空JALラビッツを大量リードしていた。残された時間が2.2秒となったところでJALは何とタイムアウトを要求。再開後、20メートルはあろうかというロングパスがリング下の春日流い(かすが・るい=24)に通り、JALが2点を返して終了のホイッスルが鳴った。
 勝負がついた試合の終了間際に、負けているチームがわざわざタイムアウトを取るとは珍しい。実は、このラストプレーこそ荒順一ヘッドコーチが狙っていたものだった。荒コーチは「2.2秒でタイムアウトを取って申し訳ない。大変失礼なことをした」と苦笑しながらも「残り2秒でも点を取りたい。取れるんだぞ、ということを見せたい。若い選手にそれを経験させたかった」と続けた。主将の岩村裕美(28)も「あきらめない気持ちをコートに全面的に出すのが私たちの仕事」と語る。
 5日の準々決勝で強豪シャンソン化粧品を破り勢いづくJALは、Wリーグで現在首位のトヨタにも臆せず「あわよくば勝ちたい」(荒コーチ)と挑んだ。しかし序盤からリバウンドをことごとく取られ、ベテラン矢野良子(31)らに3ポイントシュートを次々と決められる。第3クオーターで一時は30点差をつけられたが、終盤になってリバウンドも奪えるようになり連続攻撃を展開。第4Qは24-13。最後の一発を決めて意地と執念を見せたところで幕切れになった。
 今季の残る舞台はWリーグ終盤戦。現在5位で、4位シャンソンとの勝利差は1つしかない。4位以内に入ればプレーオフ進出が決まる。
 一方で今後は、会社再建に絡んでチームの存続問題が浮上しかねない。折りしも8日、会社更生法の適用による再建を進める方向が打ち出された。まさに日航再建策の話し合いが大詰めを迎えていた中で、選手たちは日本一を目指して戦っていたわけだ。
 「私はJALの人間ですけど、あまり(会社再建の)詳しいことはわからない。ただ、会社としてはラビッツを継続する考えだと聞いている。あとはどういう仕組み(で再建する)かはわからない」(荒コーチ)
 JALラビッツは1980年、民営化記念の一環として誕生した。以来、強化方針に基づいた選手採用を続け、85年にWリーグの前身である日本リーグ1部に昇格。2002年と04、05年にWリーグ準優勝、2004年度には全日本総合選手権で初優勝を果たすなどの実績を残してきた。客室乗務員の“スッチー選手”もいることでも注目され、現在は16人の選手中、岩村アテネ五輪代表だった矢代直美(32)がキャビン勤務をしている。
 荒コーチによると、ラビッツのJALに対する貢献度の高さは会社側も認めており、政府や企業再生支援機構などで再建策が話し合われる際には、JALがラビッツの資料も提示してその価値をPRしているという。
 「私たちは何も聞かされていないので、目の前にあることを精一杯やろうとチームでは言っている」(岩村
 JAL社員ではない女性観客は「チームがなくなるんじゃないかと心配です」とコートを見守った。一方で、JALのロゴ入り法被を着た社員とみられる応援の男性にコメントを求めると「広報を通してください」と何やら官僚的な対応。よほどマスコミに対する警戒心が強いのだろうか…。
あったからピックアップしとく。